最初の入院中は私自身も当時は副院長であったため臨床現場にいたから、当然毎日彼を回診した。初回手術後にいろいろなことが脳裏を去来したとは思うが、彼は本当に病室で良く本を読んでいた。実はこのときは本当に読書が好きなんだな、あるいは全力で仕事をしていた医師が突然個室に入院して、仕事から隔離されればやはりこうして本を読むのだろうと思っていた。歩けるようになると彼は医局に点滴台をひきながら現れて文献を読んでいたことがあった。初回手術の入院時はこのように医師としては当然かなと言う程度の印象を持っていたが、その後の再発が分かってからの数回の入院でも彼は読書をしたり医学論文を読むことを常に続けていた。しかし、そのときは初回入院とは異なり再発を告知され、余命についても深く悩み続けている状況である。その状況で病床を見舞う側としては、ベッドサイドにおいてある論文を見ると心が痛んだし、同時に彼の壮絶な気迫とやり場のない怒りと不安の象徴であると感じないではいられなかった。そういう意味では、少なくとも私の前ではどんなときも彼は優れた医師、医学探求者として振る舞ってくれた。もし、いまさらこんな論文を読んでいったい何の役に立つんだよ先生、と私に突っかかって来てくれたらどういう対応もできなかったと思う。今でも感謝しているし、心から尊敬している。