ラヴォアジェは1877年までに新しい酸化燃焼理論を確立し、フロギストン説は排除されることになる。パラダイム(paradig)の転換が起こったのだ。パラダイムとは、ある時代やある分野において支配的な規範となるものの見方や捉え方を言う。彼はプリーストリーの発見した気体を酸素(1781年)、キャヴェンディッシュの発見した気体を水素(1783年)とした名づけ親で、また、水を水素と酸素の化合物と確定したのも彼である。近代化学の創始者であったラヅオアジェが、徴税官でもあったために、フランス革命の際に処刑されて早死にしてしまったことは、まことに残念である。ラヴォアジェにも師事したことのあるスイスの発明家で、いかさま師ともいわれたアルカンは、ラヅオアジェの燃焼理論をランプに積極的に応用した。それまで使われていた灯芯は植物の繊維を編んでつくったもので、明るくするためには灯芯の太さや面積を大きくするだけだった。アルカンが1783年に発明した「アルガンーランプ」の灯芯は、パイプ状に丸められ、内側が空洞になっていた。灯芯は油壷と直結している。火を灯すと、灯芯の空洞の上のほうにある空気は、炎に温められて灯芯のなかを上昇し、炎に酸素を供給する。同時に空洞の下側からは新鮮な空気が入り込む。要するに、パイプ状の灯芯のなかを空気が絶えず下から上に流れ、効率よくオイルを燃焼させるような工夫をしたのである。それまでのオイルランプよりもいっそう明るいアルガンーランプは、しかも燃焼効率がよいため、煤も出にくかった。現在でも石油ストーブにはアルカンの方式が使われているように、オイルランプの技術革新であった。このアルカンランプがいかに画期的であったかについては、当時フランス科学アカデミーの会員であったピエールージョセフーマケのつぎのような報告をヴォルフガングーシヴェルブシュが伝えている。「このランプはじつにみごとだ。法外に明るく、活気があり、まぶしいといってもよい。その点で、現在使われているあらゆるランプを上回っている。煙も一切でない」と。ロウソクについても、少しふれておこう。これまで述べてきたように、18世紀後半以降、化学の知識は著しく増加した。化学は物質に関わる学問なので、知識が増えれば、必ずその知識を応用した製品が生まれる。ロウソクも例外ではない。それまでは自然にあるものをそのまま利用してつくられていたのだが、自然物から抽出したり合成したりした新しい材料が利用されるようになった。1818年にはアンリーブラコノーとF・シモナンが、動植物の油脂に含まれているステアリン酸からステアリンーロウソクを製造する。さらに1825年、フランスの化学者ミシェルーウジェーヌーシュペールとジョセフーゲイリュサックは、脂肪酸からつくったロウソクの特許を取っている。1830年ころには、いまもロウソクの原料の主流であるパラフィンが発見され、ただちに英国でパラフィンロウソクがつくられた。新しい材料によって、においや煤の問題は大幅に改良されていった。